最高裁判所第二小法廷 昭和35(オ)345 判決
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人三原道也の上告理由第一、二点について。
論旨は、原判決は本件解約申入については正当事由を要しないとしているもので
あり、そうでなくても正当事由の判断を誤つている、という。しかし、所論原判示
によれば、原審は本件賃貸借は締結から口頭弁論終結時までにすでに満四年近くを
経過している事実をもつて本件解約申入の正当事由としている趣旨であつて、正当
事由を要しないとしているものではないと解せられるからこの点の論旨はすでに前
提を欠くものというべきである。さらに、原判決の確定した事実によれば、本件賃
貸借契約は抵当権設定登記後に締結された期間の定めのないもので、被上告人は右
抵当権が実行された結果本件建物を競落して所有権を取得した、というのであり、
原判決、その引用する一審判決の事実摘示および記録に徴するも、上告人は被上告
人の解約申入の正当事由に関し上告人側の事情について何ら主張立証していないの
である。このような場合には被上告人の解約申入は原審確定の前記のような事実を
もつて正当事由にあたるとした原審の判断は結局において正当として是認できる。
この点の論旨は原判示にそわない事実を前提とするか、または独自の見解に立脚し
て原判決に所論の違法ありと主張するものである。以上により論旨はすべて採用で
きない。
同第三点について。
被上告人が原審第一回口頭弁論期日において陳述した準備書面によれば、本件家
屋に対する上告人の賃借権が被上告人に対抗できるものとするも、被上告人は上告
人に対し、本件訴状を以て解約の申入をなす旨の暗黙の意思表示(賃貸借契約の存
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続と相容れない意思表示)をなしたのであり、右訴状は昭和三三年九月一一日上告
人に送達されたから法定期間の経過で本件賃貸借は終了し、従つて上告人は被上告
人に対して本件家屋の明渡義務を負うという趣旨の主張がなされていることが明ら
かである(原判決事実摘示参照)。よつて被上告人の主張しない解約申入の事実を
認定したとの所論は理由がない。
同第四点について。
第三点において述べたように原審で被上告人は解約申入をした旨主張したことは
明らかであるから、当事者は正当事由をめぐつて自己の側の事情を主張、立証すべ
きものであり、この場合、裁判所が正当事由の有無につき当事者に所論のような釈
明をしなければならない責務があるものとは解されない。論旨は採用できない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官奥野健一の補足意見ある
外、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
裁判官奥野健一の補足意見は次のとおりである。
期間の定めのない賃貸借は抵当権の登記後に登記したものであつても、一応これ
を以つて抵当権者ないし競落人に対抗することができるものと解すべきではあるが、
既に民法六〇二条の期間を経過した場合においては、これを以つて競落人に対抗す
ることができないものと解するのが相当である。
けだし、若し期間の定めのない賃貸借が既に民法六〇二条の期間を経過した後で
も、競落人に対抗ができるものと解することは、結果において民法六〇二条の期間
を超える長期の賃貸借を抵当権者ないし競落人に対抗し得ることになり、民法三九
五条の明文に反するからである。のみならず、競落人がかかる賃貸借の対抗を排除
するためには、改めて賃貸借について解約申入の手続をしなければならないことに
なり、しかも、その解約申入については借家法一条ノ二により正当の事由のある場
合でなければならない。そして単に競落人であるということだけで常に、直ちに競
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落人の解約の申入につき正当の事由があるものと解し得るかは甚だ疑問であるのみ
ならず、若し、仮に正当の事由を競落人のために有利に緩和すべきであるとの解釈
が許されるものとしても、競落人は、少くとも借家法三条により六月間なお賃貸借
の存続を甘受しなければならない不利益を科せられることになる。
かかる解釈は、民法三九五条が抵当権者ないし競落人に対し、民法六〇二条の期
間を超える賃貸借の対抗を受けないものとした趣旨に反するものであること明らか
であるから採るを得ない。
本件上告を棄却する結論においては多数意見に同調するが、その理由において意
見を異にする。
最高裁判所第二小法廷
裁判官 池 田 克
裁判官 河 村 大 助
裁判官 奥 野 健 一
裁判官 山 田 作 之 助
裁判長裁判官藤田八郎は出張につき署名押印することができない。
裁判官 池 田 克
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